湘北高校の生徒や他校の指導者が恐縮するほどの権威を持つ安西先生が、なぜ花道のアゴ攻撃に一度も激怒しなかったのか。その理由は、安西先生の波乱に満ちた過去と指導者としての精神的成熟にあります。
かつて大学バスケ界を席巻していた頃の安西先生は、スパルタ指導と冷徹な采配から「白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)」と恐れられていました。しかし、将来を嘱望していた教え子・谷沢龍二が自身の厳しい指導に反発して渡米し、異国の地で挫折の末に事故死するという悲劇に見舞われます。この痛恨の出来事をきっかけに安西先生は大学界を去り、性格も温厚な「白髪仏(ホワイトヘアードブッダ)」へと大きく変化しました。
高校バスケの現場に身を置いた安西先生にとって、桜木花道は型破りでありながら、底知れない情熱と素直さを併せ持った希望の光でした。常識にとらわれない花道の奔放なエネルギーを頭ごなしに否定せず、丸ごと受け止める包容力こそが、名将の導き出した新たな指導方針だったのです。タプタプされることで花道の極度の緊張を解きほぐし、精神的距離を一気に縮めるという、指揮官としての高度な心理的意図も感じ取ることができます。