成犬時の体重が60キロから80キロ、時には90キロ近くに達する超大型犬であるチベタン・マスティフを一般家庭で管理することは、物理的にも心理的にも極めて過酷である。見知らぬ他者や他の動物に対する警戒心は犬種の中でも群を抜いて高く、自身のテリトリーに侵入したと判断した対象には容赦ない防衛本能をむき出しにする。海外では飼い主の制止を振り切った咬傷事故や死亡事故が複数報告されており、その制止不能な破壊力は凶器に等しい。
日常のケアにかかる負担も桁外れだ。極寒の地に適応した分厚いダブルコートは、日本の高温多湿な気候下では深刻な皮膚トラブルや熱中症の引き金となるため、24時間のエアコン稼働と膨大な換毛期の手入れが不可欠である。さらに、十分な運動スペースを確保できない閉鎖的な飼育環境は、犬に過度なストレスを与え、攻撃性を爆発的に高める要因となる。生半可な愛犬家精神で扱える存在では断じてない。