図書カードに自分の名前を先回りして刻む。いま振り返ればあまりに大胆で、どこか青臭い策略だ。読書好きの少女・月島雫の視線を集めたい一心で本を乱読した聖司の行動は、計算高くもあり、同時にひどく純粋だった。
二人の関係性は、甘ったるいだけの青春恋愛映画とは一線を画す。互いを意識するきっかけは恋心であると同時に、強烈な表現者としてのライバル心でもあった。聖司が工房で黙々と木を削り、バイオリンと格闘する姿を見せつけられた雫は、自分の空っぽさに打ちのめされる。惹かれ合いながらも、相手の存在に焦燥感を煽られる思春期の生々しい力学がそこにある。