高度4万2000メートルの静寂へ――2026年、日本の民間気球が到達した「宇宙の境界線」と絶望からの脱出劇の見逃せないポイントを徹底的にカバーしました。

風は、完全に止んでいた。

午前3時45分。射場を包む冷気の中で、高さ100メートルを超える透明な気球がゆっくりと立ち上がる。ガスが注入されるに従い、巨体は夜空に向かって首をもたげた。今回の飛行は、単なる記録会ではない。従来の巨大ロケットによる宇宙旅行が抱える「莫大な燃料コスト」と「猛烈な危険度」を根本から覆すための、実証実験だった。

気球による成層圏探査は古い技術だ。しかし、薄膜素材の分子構造を見直し、氷点下70度を超える極低温下での引き裂き強度を従来の3倍に跳ね上げた新素材が、不可能を可能に変えた。開発を率いたスタートアップ「エアロ・フロンティア」のCTO、神島裕介(39)は次のように語る。

「ロケットは力任せに空をこじ開ける。でも僕らは、大気の浮力に乗って、空の隙間にそっと滑り込む方法を選んだ。燃料は一切燃やさない。必要なのは正確な気象予測と、破裂しないフィルムだけだ」