主演の役所広司が見せた演技は、まさに息をのむ圧巻の域に達している。追いつめられていく男の精神的崩壊を、目の動き一つ、呼吸の揺らぎ一つで完璧に表現してみせた。善と悪の境界線が次第にあやふやになり、狂気に取り込まれていく過程は圧巻の一言に尽きる。
彼が演じる主人公の苦悩は、現代社会を生きる私たちが日常的に抱える不安の投影に他ならない。隣人の顔すら知らない希薄な人間関係の中で、誰しもがいつ被害者になり、あるいは加害者に変貌してしまうかわからないという恐怖。役所の怪演は、スクリーンを超えて私たちの現実世界へと生々しく突き刺さってくる。