道内の警戒マップは、かつての「奥山に立ち入らなければ安全」という前提を覆すデータを示しています。全国15万9,000件以上のクマ出没情報を可視化したリアルタイム追跡プラットフォーム「クママップ」および北海道警察の統計によると、直近の観測実績において市街地およびその近郊での確認比率が著しい上昇基調を示しています。
とりわけ人口190万人を抱える道都における札幌市ヒグマ目撃情報は、極めて差し迫った脅威を浮き彫りにしています。南区の藻南公園周辺や真駒内、西区の平和・福井地区、手稲区の金山地区、さらには中央区の円山・旭山記念公園一帯に至るまで、住宅街に直接隣接する都市公園や河川敷で毎年のように目撃・捕獲事案が続発しています。
かつては山奥の原生林にとどまっていた個体が、なぜ人間が密集するエリアに定着するようになったのか。その根底にはアーバンベア急増の理由として分析される複数の環境構造変化が存在します。
第一に、1990年に北海道がヒグマの「春グマ駆除制度」を廃止して以降、人間に撃たれた経験を持たず、ヒトや人工物の生活音を過度に恐れない「新世代のヒグマ」が世代交代を経て主流となった点が挙げられます。第二に、山麓部における農地放棄や林業の衰退に伴い、山林と住宅街を隔てていた緩衝地帯(里山)が消滅したことです。河川沿いの緑地帯(グリーンベルト)が都市の中心部まで一本の道として繋がっており、藪に身を隠しながら夜間に徘徊するルートが自然に形成されてしまいました。
さらに、廃棄された家庭菜園の野菜、コンポスト、生ゴミ、果樹園の落果など、市街地周辺には山中のドングリやフキよりも高カロリーで容易に手に入る食糧資源が充満しています。一度この味と安全性を学習した個体は、山林へ戻ることなく市街地近郊を回遊するアーバンベアへと変容します。