映画界の最高峰であるカンヌ国際映画祭の会場は、上映終了とともに静まり返り、次の瞬間に割れんばかりの拍手に包まれた。本作が放つ独特の空気感は、派手なアクションや突飛なVFXに頼るものではない。どこにでもある生活用品の手触りや、紙が擦れる微かな音の重なりによって、静謐かつ恐ろしいサスペンスが構築されている。
過剰な説明を削ぎ落とした演出が生み出すのは、誰もが身に覚えのある「日常がじわじわと侵食される恐怖」だ。観客は知らず知らずのうちに、画面に映る小さな小道具の一つひとつに視線を凝らさざるを得なくなる。日常の境界線が揺らぐ感覚こそ、本作が世界を魅了した最大の理由と言える。