ハルノ宵子(本名・吉本多千子)の生き様を語る上で欠かせないのが、父・吉本隆明との濃密な歳月だ。戦後思想の巨頭として言論界に君臨した隆明だが、家庭においては晩年、病との闘いや身体の衰えに直面していた。その傍らで日々の介護を担い、生活の基盤を守り抜いたのが長女であるハルノ宵子だった。
世間が抱く「偉大な思想家の家庭」という幻想を、彼女は飾り気のない言葉で解き明かしてきた。気難しさや人間的な弱さをも抱えた父の素顔をユーモアと深い愛情を込めて描き出す視線には、揺るぎない家族の絆が宿っている。過剰に神格化されることなく、ひとりの人間としての隆明を温かく見守り続けた彼女の存在こそが、吉本家の精神的支柱であったと言えるだろう。