外からは中が見えず、中からは外の様子が手にとるように分かる「木虫籠(きむすこ)」と呼ばれる精緻な出格子。この独特の意匠は、かつて前田利家が礎を築いた加賀藩において、武士や豪商たちが日常を忘れて芸事に遊んだ空間を守るための知恵だった。1820年の茶屋街創設時からそのままの姿を留める「志摩(国指定重要文化財)」へ足を踏み入れると、当時の粋人たちの息遣いが木造空間の隅々にまで染み付いているのを感じる。
現在も格式高い「一見さんお断り」の伝統を守りながら、夜になれば艶やかなお座敷の明かりが灯る懐華樓など、ひがし茶屋街には生きた芸妓文化が脈々と継承されている。磨き上げられた漆の床、三味線の音色、艶やかな着物の裾さばき。単なる古い街並みの保存にとどまらず、伝統芸能という無形の命が宿っているからこそ、この街は重厚な気品を失わない。