全国の競馬サークルやSNSのコミュニティでも頻繁に議論を呼ぶのが、「中央(JRA)のダートと地方競馬(NAR)のダートは全く別物である」という事実です。
両者の最大の違いは、コースに敷かれた「クッション砂の厚さ(深度)」と「砂の産地・粒度」にあります。
砂の厚さ基準が生み出す走破抵抗の格差
JRA各競馬場のダートコースは、一貫して砂の厚さ「9.0cm」を基準に厳格に整備されています。レース発走前には走路整備車(ウニモグやハロー掛け重機)が均等に砂を均し、内ラチ沿いから外側まで極力均一な深さを保つよう管理されています。
一方、地方競馬場は各競馬場の馬場特性や安全管理方針によって基準が異なります。かつての大井競馬場や川崎競馬場などでは砂厚が8.5cm前後に設定されていた時期もありましたが、近年は競走馬の脚元保護と安全性向上の観点から、全国的に見直しが進められました。
特に競馬界へ衝撃を与えたのが、大井競馬場が2023年秋に断行した「オーストラリア産白砂」への全面入れ替えです。従来の青森県産海砂に比べて粒子の角が立ち、クッション性が高く馬の脚が深く沈み込む特性を持ちます。大井競馬場はこの白砂導入に伴い、砂厚を従来の8.0cmから10.0cmへと変更しました。このわずか2cmの増厚と素材の変化により、走破タイムは従来のレコード水準から1秒〜2秒以上も時計が掛かるタフな馬場へと変貌を遂げました。
「水を含むと速くなる」ダート馬場状態の物理メカニクス
競馬初心者が最も混乱しやすいのが、ダートにおける「馬場状態とタイムの逆転現象」です。
芝コースの場合、良馬場から稍重、重、不良と水分量が増えるにつれて地面が緩み、グリップが利かなくなるため走破タイムは露骨に遅くなります。しかし、砂のダートコースでは現象が真逆になります。
乾燥した砂(良馬場)は、足を踏み入れると粒子同士が横に逃げてしまい、前進するエネルギーが逃げてしまいます。これは「乾いた砂浜をスニーカーで走ると足を取られて全く進まない」感覚と同じです。ところが、雨が降って適度な水分(含水率)が含まれると、水分子の表面張力によって砂の粒子同士が引き合い、地面がギュッと硬く締まります。
その結果、馬の蹄が沈み込まずにしっかり反発を得られるようになり、良馬場よりも重馬場・不良馬場の方が1ハロンあたり0.5秒〜1秒近くタイムが速くなるという現象が起きます。ただし、水たまりが浮くほどの完全な泥濘(田んぼのような過度の不良馬場)になると、今度は水の粘性抵抗(キックバックの重さ)が生じ、急激に体力を奪われる消耗戦へとシフトします。