結論から述べると、学術的・行政的な見解として九州のツキノワグマはすでに絶滅しています。かつては九州中央山地や祖母傾山系、脊振山地などに広く分布し、マタギ文化や狩猟伝承が残されていたものの、20世紀半ばを境にその姿を完全に消しました。
九州における確実な最後の生息記録とされているのが、1957年(昭和32年)に大分県・宮崎県境の祖母傾山系で捕獲されたツキノワグマ(オス)です。この個体の捕獲以降、信頼に足る確証(糞、爪痕、体毛、鮮明な撮影写真など)が公式に確認されたことはありません。
その後、長年にわたり九州野生動物研究会や各県による大規模なフィールドワーク・痕跡調査が繰り返されましたが、生存を示す科学的証拠は得られませんでした。これを受け、環境省は2012年に公表した第4次レッドリストにおいて、九州地方のツキノワグマを「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」から「絶滅」へと評価を変更しました。半世紀以上にわたる追跡調査の末に下された、極めて重い公式見解です。