このアルバムが音楽史に刻んだ最大の功績は、ジャンルという境界線の完全な融解にある。本作はしばしばソフィスティ・ポップの先駆的作品として語られるが、その実態はより雑食でアグレッシブだ。軽妙なボサノヴァの裏に潜む鋭利な批評性、クールなジャズ・ロックの語法で紡がれる労働者階級の哀愁。
サッチャー政権下の冷酷な政治情勢に対する怒りは、アジテーションとして叫ばれるのではなく、極上のアンサンブルの中にエレガントに潜伏している。怒りを優雅なコード進行で包み隠すアイロニー。この二面性こそが、単なるラウンジ・ミュージックとは決定的に異なるエッジをアルバム全体に与えている。