方便品の思想的クライマックスを飾るのが、「諸法実相(しょほうじっそう)」と「十如是(じゅうにょぜ)」の法理です。この二つは、仏教における宇宙論・生命論の最高到達点として知られています。
「諸法実相」の意味は、「宇宙に存在するあらゆる事象(諸法)は、そのありのままの姿の中に究極の真理(実相)を宿している」というものです。日常の悩みや現実の苦しみから離れたどこか遠くに悟りがあるのではなく、今ここにある現実の世界そのものが真実の現れであると肯定する、極めて力強い世界観を示しています。
そして、その実相のメカニズムを10の要素で解剖したのが「十如是」です。どんな生命や現象も、以下の10の因果律と法則性を常に具備していると説かれます。
- 如是相(にょぜそう):外見・外面の姿や特徴
- 如是性(にょぜしょう):内面・精神的な性質や心根
- 如是体(にょぜたい):姿と心を統合した生命そのものの実体
- 如是力(にょぜりき):潜在的に備わっている固有の能力・エネルギー
- 如是作(にょぜさ):その力が外に向かって発揮される作用・働き
- 如是因(にょぜいん):結果を生み出す直接的な原因(心の奥の動機や業)
- 如是縁(にょぜえん):直接原因を刺激して発動させる外面的な条件・環境
- 如是果(にょぜか):因と縁が結びついて生命の内面に生じる直接の結果
- 如是報(にょぜほう):その結果が時間とともに外面的な境遇として現れる報い
- 如是本末究竟等(にょぜほんまつくきょうとう):相から報までの最初と最後が、一つの実相として矛盾なく完全に貫通していること
十如是を理解することで、なぜ自分に苦難が訪れているのか、どうすれば境涯を変革できるのかという「生命変革の法則」が明晰に理解できるようになります。