そもそも、なぜ鶏胸肉は火を通すとパサついてしまうのか。その疑問の答えは、肉に含まれる水分とタンパク質の変性メカニズムにある。
日本調理科学会などの研究資料によると、鶏胸肉はもも肉に比べて脂質が極めて少なく、水分量が約75%と高い割合を占めている。加熱によって筋肉タンパク質のアクチンやミオシンが収縮を始めると、細胞内に蓄えられていた水分が外へと絞り出されてしまう。これが、パサつきの根本原因だ。
食品科学の観点からは、温度管理と保水力のコントロールこそが柔らかさを左右する絶対的な鍵となる。肉の水分をいかに閉じ込め、タンパク質の急激な凝固を防ぐか。ここにプロの現場と家庭料理を分かつ境界線が存在する。