ネット上には「ピロリ菌は大人同士のキスや日常会話でうつる」「除菌に成功すれば一生胃がんにならない」といった誤った情報が散見されます。こうした誤解を排し、正しい事実を把握しておくことが重要です。
第一に、ピロリ菌感染経路家族の実態についてです。大人の胃は強力な胃酸(pH1〜2)に守られているため、成人してから日常生活の中で新たにピロリ菌に感染することは極めて稀です。感染の9割以上は、胃酸の分泌機能や免疫力が未発達な「乳幼児期(概ね5歳以下)」に成立します。かつて昭和から平成初期にかけて主流だった「親や祖父母による離乳食の口移し」「同一の箸やスプーンでの食事共有」「井戸水の飲用」が主な感染経路でした。したがって、大人同士の会食や夫婦生活でパートナーにうつる心配はほぼありません。ただし、幼い子どもや孫と接する世代が感染している場合、家庭内での唾液を介した感染連鎖を断つためにも親世代・祖父母世代の除菌が極めて有効です。
第二の盲点は、「除菌成功=胃がんリスクゼロ」ではないという事実です。除菌によって胃がん発症のリスクは3分の1から数分の1程度まで大幅に低減できますが、完全にゼロにはなりません。特に40歳以降で長年ピロリ菌に胃粘膜を傷つけられ、すでに萎縮性胃炎が進行していた場合、除菌後であっても傷ついた遺伝子から年月を経てがん細胞が発生することがあります。除菌が成功したからと安心し切って健診をやめてしまうのが最も危険なパターンであり、「除菌完了後も年に1回の定期的な胃カメラ検査」を継続することこそが、胃がん死を完全に防ぐ防壁となります。