去勢手術を終えた愛犬の下腹部を見て、「精巣を取り出したはずなのに、袋が手術前と同じくらい膨らんでいる」と驚く飼い主は非常に多く存在します。この現象の多くは、医学的に「陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)」または「漿液腫(しょうえきしゅ)」と呼ばれる状態です。
精巣を摘出した後の陰嚢内部には、一時的に空間(死腔)が生じます。体はこの空間を埋めようとして体液(漿液)や微細な毛細血管からの血液を溜め込むため、まるで睾丸がそのまま残っているかのようにポッコリと膨らんで見えるのです。特に、大型犬や成犬・シニア犬など、もともと精巣や陰嚢が大きかった犬ほど体液が溜まりやすく、腫れが目立つ傾向にあります。
あわせて見られる赤紫色の皮下出血(内出血)も、切開部周辺の微小な血管から染み出た血液が重力に従って陰嚢や内股の皮膚に沈着したものです。愛犬が患部を痛がって鳴くことがなく、腫れがブヨブヨとして柔らかく、熱を持っていなければ、溜まった体液は2〜3週間ほどかけて徐々に体積を減らし、最終的には陰嚢自体が縮小して平らになります。