まず押さえるべきは、ラグーとは意味と語源の背景にある言語的ルーツである。「ラグー(ragù)」の語源は、フランス語で「食欲をそそる、風味を添える」を意味する動詞「ラグレ(ragoûter)」、および肉や野菜の煮込みを指す「ラグラ(ragoût)」に遡る。18世紀の貴族社会において、ナポリ宮廷に招致されたフランス人料理人が持ち込んだ煮込み技法がイタリア全土に伝播し、土着の食文化と融合したことで生まれた呼称である。
イタリア料理の文脈において、ラグーソースとは「食材(肉、魚介、野菜)を細かく刻み、ワインや出汁、トマトなどとともに弱火でじっくり煮込んだ料理」の総称を指す。つまり、特定の味付けや食材のみを限定する名称ではなく、広範な煮込み技法そのものを包括するカテゴリー名なのである。
ここで多くの人が混乱するラグーとボロネーゼの違いを整理すると、両者は「上位概念と下位概念」の関係にある。ラグーという広大な煮込み料理の海の中に、エミリア・ロマーニャ州ボローニャ地方発祥の「ラグー・アッラ・ボロニェーゼ(ボローニャ風ラグー)」が存在している。すなわち、「すべてのボロネーゼはラグーであるが、すべてのラグーがボロネーゼであるわけではない」という関係性が論理的な正解である。
一方、日本人に最も馴染み深いミートソースとの違いは、文化的なルーツと味覚設計に起因する。ミートソースは第二次世界大戦後、アメリカ軍が進駐した日本において、アメリカ流の簡便なトマトケチャップ文化や缶詰加工技術と結びついて独自進化した洋食である。香味野菜を炒めて肉の重厚さを引き出すラグーに対し、日本のミートソースはトマトペースト、ケチャップ、砂糖、ウスターソースなどを多用し、子供から大人まで親しみやすい甘みと軽やかな酸味を前面に押し出している。本場のラグーが「ワインとともに味わう肉料理」であるならば、日本のミートソースは「主食である麺を軽快に食べ進めるための甘口ソース」として発展した歴史的経緯がある。