終末期医療をめぐる議論で最も混同されやすいのが「尊厳死」と「安楽死」の概念です。一般的に尊厳死とは、過剰な延命治療を差し控えたり中止したりすることで、人間としての尊厳を保ちながら自然な経過で訪れる死(消極的安楽死)を迎えることを指します。一方、積極的安楽死とは、耐え難い苦痛から逃れるために医師が致死薬を投与するなどして、意図的に生命を短縮させる行為を意味します。
日本の現行法制下において、積極的安楽死は一切認められておらず、実施すれば明確な殺人罪に問われます。これに対し、尊厳死(延命治療の不開始・中止)については、厚生労働省が策定した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2007年策定、2018年改訂)によって、適法な医療判断としてのプロセスが整備されています。
厚生労働省のガイドラインが定める、終末期医療の決定プロセスにおける根幹は以下の3点です。
- 医師単独の判断を厳禁:医師1人の裁量ではなく、医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなど多職種からなる医療・ケアチームで総合的に判断すること。
- 本人の意思決定を最優先:患者本人による意思表明が基本であり、意思疎通が困難な場合は家族が本人の意思を推定する。推定も困難な場合は、患者にとっての最善を家族と医療チームが話し合う。
- プロセスの反復と記録:病状の変化に応じて判断は揺れ動くものであるため、話し合いを何度も重ね、その都度すべての協議内容を詳細に診療録(カルテ)へ記録する。
集中治療の現場における人工呼吸器の離脱判断基準は極めて厳格です。自発呼吸の回復が見込めない脳死状態や多臓器不全の進行、昇圧剤や輸血を最大限行っても血圧を維持できない不可逆的終末期に達した段階で、治療の主たる目的が「治癒や救命」から「苦痛の緩和」へと完全に移行したとチーム全体が認めた場合にのみ、人工呼吸器の取り外しや設定の漸減(ターミナルウィーニング)が検討課題となります。