ネット上の掲示板やSNSでは、定期的に「〇〇くん、人中短縮した?」「鼻の下が短くなって顔が変わった」といった整形疑惑の言説が浮上します。デビュー当時の写真と現在の姿を比較し、人中の長さの変化を指摘する投稿が拡散されるケースは珍しくありません。
しかし、美容形成外科医や長年エンタメ界のヘアメイクを担当するプロフェッショナルの取材を通じて見えてくるのは、ネット上の憶測と現場の実態との大きな乖離です。著名な男性芸能人がメスを入れる切開式の人中短縮術(リップリフト)を受けるケースは、現実には極めて稀と言わざるを得ません。
人中が短くなったように見える最大の要因は、「歯列矯正による口元の後退」と「年齢に伴う体脂肪率の低下」です。特に20代から30代にかけて歯列矯正を行う男性芸能人は多く、前歯の傾きや口ゴボ(上下顎前突)が解消されると、上唇の巻き込みが取れて立体感が出ます。その結果、物理的な距離は変わっていなくても、視覚的に人中が引き締まって短く錯覚される現象が起きます。
また、近年のハイビジョン映像技術に対応したメンズメイクの進化も見逃せません。リップラインのオーバーリップ補正や、鼻柱の根元に入れるシェーディング、唇の上部にハイライトを置く立体感演出によって、陰影を意図的にコントロールする技術は業界内で完全に確立されています。
安易な切開手術のリスクについて、形成外科専門医は警鐘を鳴らします。男性は女性に比べて皮膚が厚く皮脂分泌も多いため、鼻の直下にできる切開創の瘢痕(傷跡)が赤く盛り上がりやすい特徴があります。さらに、無理に皮膚を数ミリ切り取れば、笑顔を作った際に上唇が不自然に引きつれ、歯茎が剥き出しになるガミースマイルを誘発する恐れがあります。第一線で表情を武器にする表現者が、不可逆的な機能障害のリスクを冒してまで切開手術に踏み切る合理的理由は見当たりません。