商業的な開発がどれほど加速しようとも、下北沢の背骨を形作っているのは演劇の鼓動だ。その中心に君臨するのが、創始者・本多一夫が築き上げた「本多劇場グループ」である。1980年代から日本の小劇場演劇を牽引し続けてきた本多劇場をはじめ、ザ・スズナリ、駅前劇場、OFF・OFFシアターといった小空間群が、今も駅周辺の路地に点在している。
年季の入った劇場の扉を開ければ、客席と舞台の境界が溶け合うような濃密な空間が広がる。無名の若手劇団による実験作から、第一線で活躍する劇作家による渾身のストレートプレイまで、連日連夜ここでしか見られない生のドラマが紡ぎ出される。街全体が巨大な劇場であるかのような錯覚を覚えるのは、チケット売り場の前にできる開演前の列や、終演後の観客が居酒屋で熱く議論を交わす日常風景が、今も変わらず息づいているからだ。