手術室の空調環境を語る上で欠かせないのが、国内のデファクトスタンダードである「日本医療福祉設備協会規格(HEAS-02-2022:病院空調設備設計・管理指針)」です。医療施設の設計者はこの規格を厳格に順守し、ミクロン単位の清浄度とパスカル(Pa)単位の室圧制御を組み立てています。
まず、室圧の基準値として求められる差圧は、一般手術室において隣接するエリア(前室や準備室、廊下)に対して最低でも+2.5Pa、標準的には+5〜+10Pa程度の陽圧差を確保することが基本設計となります。わずか数パスカルという数値は、日常的な大気圧(約101,325Pa)と比較すると極めて微細な差異に思えるかもしれません。しかし、この微小な差圧こそが、ドアの隙間や目に見えない躯体の継ぎ目から外気が侵入するのを完全に阻止する連続的な風圧を生み出します。
さらに、室圧を維持するだけでは空気自体の清浄度は担保できません。そこで導入されるのが、定格流量で粒子径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を持つHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターです。手術室空調設備の清浄度基準では、室内の空気を毎時15回から25回以上入れ替える換気回数が定められています。これは2〜4分に1回、室内の空気がすべてHEPAフィルターを通過して新しく生まれ変わる計算になります。
給排気の仕組みには、風量を一定に保つ定風量装置(CAV)や、差圧センサーと連動してファンの回転数を瞬時にアジャストする変風量装置(VAV)が用いられます。給気量を排気量よりも常に約10〜15%多く供給し続けることで、室内に余剰圧力が生まれ、安定した陽圧状態が物理的に固定される仕組みです。