近年進展した古代オリエント文字の解読作業により、当時の強大国家ヒッタイトの首都ハットゥシャから出土した粘土板文書の中に、トロイに関する重要な記述が発見されました。文書には「ウィルサ(トロイの別名イリオスに該当)」という小国をめぐり、「アヒヤワ(ギリシャ系のアカイア人)」との間で激しい軍事衝突が起きていたことが克明に記されていたのです。
この発見により、トロイア戦争は美女ヘレネの略奪という個人的な愛憎劇ではなく、黒海とエーゲ海を結ぶ戦略的要衝「ダーダネルス海峡」の通商支配権を巡る国際戦争であったことが確定的となりました。神話の壮麗な脚色の奥底には、古代地中海世界を揺るがした熾烈な地政学リスクの現実が刻まれていたのです。