では、あの惨劇から時を経た現在、現地はどうなっているのでしょうか。結論から言えば、行政・民間双方による二重三重の防御壁が構築され、脆弱性は劇的に改善されています。武蔵小杉の浸水被害対策の現在は、全国の自治体における水防モデルケースと呼べる水準に達しています。
川崎市が最優先で断行したのが、浸水の元凶となった排水樋管への設備改修です。川崎市の治水対策における逆流防止弁(フラップゲート)の改良や遠隔操作による電動化ゲートの導入が完了し、多摩川の水位上昇時に人為的遅れなく即座に逆流を遮断する体制が整いました。さらに、市街地に滞留した雨水を多摩川へ強制排水するため、等々力ポンプ場の排水能力増強工事や雨水貯留管の整備が進められ、時間降雨量約80〜100ミリ規模の集中豪雨でも内水氾濫を起こさないキャパシティを確保しています。
行政のインフラ整備以上にドラスティックな変化を遂げたのが、各タワーマンション管理組合による自衛措置です。被害を受けた棟はもちろん、周辺の無傷だった高層棟も含め、以下のハード・ソフト改修が相次いで完了しました。
- 地下開口部の完全止水化:地下駐車場入口や換気ガラリへの二重防潮板・防水扉の設置(水深2メートル以上の水圧に耐えうる仕様への更新)。
- 電気設備の地上移設・かさ上げ:地下にあった受変電設備や非常用発電機を地上2階以上や受水槽上部へ移設、あるいは止水壁で完全密閉区画化。
- 非常用インフラの冗長化:停電時でも共用部トイレや指定階への給水を維持する非常用発電機の燃料備蓄増強(最低72時間〜1週間稼働の確保)。
当時の脆弱性を徹底的に洗い出した結果、現在の武蔵小杉主要タワマンは「台風による浸水でブラックアウトする街」から「首都圏で最も浸水防護壁が強固な高層住宅群」へと変貌を遂げています。