維新の双璧と呼ばれた西郷隆盛と大久保利通。二人の道が決定的に分かれた背景には、近代化の速度を巡る思想の断絶があった。大久保が目指したのは、富国強兵と官僚機構による中央集権国家の確立である。そこには、武士という身分が育んできた倫理観や情緒が入り込む余地はなかった。
一方、鹿児島に築かれた私学校は、単なる軍事訓練所ではなかった。道徳と農本主義を重んじる若者たちの共同体であり、中央集権化を進める政府にとっては喉元に刺さった棘そのものだった。政府が送り込んだ密偵による西郷暗殺計画の噂が流れた瞬間、張り詰めていた糸は切れる。弾薬庫の襲撃、そして暴発。西郷は知らせを受けた際、「ちょん髷を切ったばかりの若者たちを、みすみす犬死にさせるわけにはいかない」と呟いたと伝えられる。運命の歯車は、誰も止められない速度で回転を始めた。