2022年、自身通算8作目にして初主演を飾った『鎌倉殿の13人』は、脚本家・三谷幸喜が描く緻密な人間劇と小栗旬の演技力が見事に融合した傑作として、現代のテレビドラマ史に刻まれました。
本作の最大の魅力は、伊豆の素朴な豪族の次男坊であった北条義時が、源頼朝(大泉洋)の薫陶を受け、生き残りをかけた熾烈な権力闘争の果てに鎌倉幕府の頂点=執権へと上り詰めていくプロセスです。序盤で見せた人懐っこい笑顔は物語が進むにつれて完全に消え失せ、返り血を浴びながら冷徹に政敵を粛清していく「ダークヒーローへの変貌(通称:闇落ち)」は、SNS上でも毎週のように大きな反響を呼びました。
特に日本中を震撼させたのが、第48回最終回「報いの時」の衝撃的なラストシーンです(※以下、重大なネタバレを含みます)。
承久の乱を制し、自らの天命を悟った義時は、病に冒され衰弱していきます。最後に対峙したのは、苦楽を共にしてきた実の姉・北条政子(小池栄子)でした。頼朝の命や幕府維持のために自らが手を下した犠牲者たちの名を数え上げ、苦しみながら薬を求める義時に対し、政子は「これ以上、あなたに罪を重ねさせたくない」と、差し出された薬を自らの手で床に捨てます。義時は息絶え、政子は静かに涙を流しながら引導を渡すという、従来の英雄譚の枠組みを打ち砕く幕引きとなりました。
当時の特番インタビューや公式手記において小栗旬は、「義時が背負った罪と孤独を、最後の瞬間まで誤魔化さずに演じ切ることだけを考えた。政子に薬を捨てられた瞬間、義時は救われたのだと思う」と述懐しています。三谷幸喜の鋭利な脚本と、それに応えた小栗旬の覚悟が生んだ名場面でした。