趣里のキャリアを語る上で避けて通れないのが、青春期の挫折と泥臭い下積み時代です。4歳からクラシックバレエを始めた彼女は、早くからプロのバレリーナを目指し、都内の名門スクールで研鑽を積みました。中学卒業後の15歳で単身イギリスへ渡り、名門「Arts Educational School(アーツ・エデュケーショナル・スクール)」へバレエ留学を果たすなど、本場の舞台で踊る将来を嘱望されていたのです。
しかし、留学先で過酷な運命が彼女を襲います。アキレス腱断裂と足首の剥離骨折という致命的な大怪我を負い、現地医師から「以前と同じように踊ることは極めて難しい」と非情な宣告を受けました。失意のなか帰国を余儀なくされ、生きる目標を完全に失った彼女を救ったのが、幼少期から身近にあった「演劇」という表現の世界でした。
高卒認定試験を経て大学へ進学する傍ら、塩屋俊主宰のアクターズクリニックで一から演技を学び直した彼女は、2011年に『3年B組金八先生ファイナル』のオーディションを突破し、20歳にして中学生役で女優デビューを果たします。そこから2018年に映画『生きてるだけで、愛。』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞するまで、小劇場の舞台やミニシアター作品を中心に、泥にまみれながら実力を磨き続けました。
『ブギウギ』のヒロイン選考オーディションでは、応募者2,471人の中から実力一本で合格を勝ち取りました。かつて夢破れたバレエの経験、そして長年の舞台で培った身体能力と歌唱表現が、ブギの女王・笠置シヅ子をモデルとした難役において完璧に開花した瞬間でした。