2014年3月14日午後6時5分、宇津井健さんは肺気腫(慢性閉塞性肺疾患に伴う急性増悪)のため、療養先であった名古屋市内の病院で息を引き取りました。享年82。まさにその日の昼過ぎ、名古屋市内の区役所に代理人を通じて提出されたのが、加瀬文恵氏との婚姻届でした。受理された時刻から起算すると、息を引き取るわずか約5時間前の入籍という、芸能界の歴史においても極めて異例の幕引きとなったのです。
なぜ宇津井さんは、自らの命の灯火が消えゆく瀬戸際で籍を入れることにこだわったのでしょうか。当時の関係者証言や手記によると、その背景には病床で昼夜を問わず付き添い、下の世話から呼吸管理のサポートまで献身的に尽くした加瀬氏に対する「男としてのケジメ」がありました。
「文恵を法的な妻として看取らせたい」「文恵に堂々と喪主を務めて送ってほしい」という強い本人の意志が、かすれゆく意識の中で示されたと伝えられています。事実、息を引き取る直前、宇津井さんはベッドサイドで加瀬氏の手を握り、「ありがとう」という感謝の言葉を遺しました。世間の一部からは「なぜそこまで急いだのか」「遺産目的ではないか」といった冷ややかな憶測も飛び交いましたが、現場で繰り広げられていたのは、互いに80代を迎えた男女が交わした、魂の契約とも呼ぶべき極限の決意でした。