勢の現役後半は、まさに病魔と負傷との壮絶な闘争でした。最高位である東関脇まで駆け上がった地力がありながら、なぜ幕下まで番付を落として引退に至ったのか。その深層には、現代の大相撲界でも類を見ない過酷な怪我の連鎖がありました。
最大の転換期となったのは、2018年から2019年にかけて悪化した右親指の蜂窩織炎(ほうかしきえん)と、それに伴う感染症でした。細菌が皮膚深部に侵入して高熱を発し、足を踏み込むことすら激痛が走る状態でありながら、彼は本場所を休場することなく土俵に上がり続けました。さらに長年の相撲で酷使した頚椎の損傷、右膝半月板損傷、持病の重度腰痛が重なり、力士の生命線である「下半身の粘り」を完全に奪われていきました。
「一度土俵に上がると決めた以上、痛みを言い訳にしたくない」。引退会見で本人が絞り出すように語ったこの言葉は、昭和・平成の土俵で美徳とされた「不撓不屈」の精神そのものでした。しかし、踏ん張りの利かない下半身では十両の土俵を維持することすら困難を極め、2021年名古屋場所を前に34歳で現役引退を決断。最後まで愚痴を漏らさず土俵へ礼を尽くした姿勢は、相撲ファンのみならず同世代の力士たちからも深い敬意を集めました。