小林幸司シェフのキャリアは、日本のイタリア料理史そのものと言っても過言ではありません。20代で単身イタリアへ渡り、シエナの名門「リストランテ・アルノルフォ」などで修行を重ね、現地の料理人を唸らせる腕前でスーシェフ(副料理長)にまで上り詰めた経歴を持ちます。
帰国後、西麻布の「リストランテ・マリーチェ」で料理長を務め一世を風靡した小林シェフは、2002年に独立し中目黒に「フォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ」を開業しました。わずか数席の店内で繰り広げられる妥協のない料理は「イタリア料理の概念を覆す」と絶賛され、予約電話が数千回鳴り止まない社会現象を巻き起こします。
しかし、絶頂期の2009年に突如として中目黒の店をクローズ。その後、2011年に新天地として選んだのが軽井沢の地でした。過去のロングインタビューでシェフ自ら「料理の香りと空気の清浄さは不可分であり、東京の雑踏では表現しきれない香りのグラデーションを軽井沢の澄んだ空気の中で完成させたかった」と語った通り、移転の理由は商業的な都合ではなく、純粋な料理芸術の極限を追求した結果でした。