「丑の刻参り」の発祥地として全国的に知られているのが、京都市左京区の深い森に包まれた貴船神社だ。水神を祀る静謐なこの神社には、『平家物語』の「剣の巻」に記された「橋姫」の凄惨な伝承が伝わる。
激しい嫉妬に狂った若い女性が、自分を捨てた夫と相手の女を殺すため、貴船神社に参籠した。彼女は「自分を生きながら鬼に変えてほしい」と神に祈り、頭に鉄輪(三本脚の燭台)を戴いて髪を松脂で固め、顔に朱を塗り、宇治川に身を浸すことでついに鬼女へと変貌を遂げたという。この凄絶な物語は、平安時代の伝説的陰陽師・安倍晴明が彼女の怨霊を打ち払う筋立てでも知られる。本来は神の加護を授かる祈願だった行為が、橋姫の凄絶な復讐劇と強く結びついたことで、現在の恐ろしい様式美が完成を見た。