力士の頭上に咲く銀杏の葉は、力士自身の手で作られるものではない。各相撲部屋に所属する専門職人「床山」の手によって結い上げられる。床山も力士同様に五等から特等までの階級に分かれており、最高峰の特等床山ともなれば、長年の修練を積んだごくわずかな職人しかなることができない。歴代の大横綱の頭を整えてきた元特等床山の床蜂をはじめとする名匠たちが、この無形文化の技を代々受け継いできた。
道具は極めてシンプルだ。柘植(つげ)の櫛、すき櫛、鬢付け油、そして元結(もとゆい)と呼ばれる和紙のこより。熱気と緊張が交錯する支度部屋で、床山は力士の頭骨の形、毛質、毛量を指先の感覚だけで瞬時に見極める。固い鬢付け油を手際よく塗り込み、寸分の狂いもなく櫛目を揃え、元結を力強く引き絞る。
仕上がりまでの所要時間はわずか十数分。激しいぶつかり合いでも決して崩れず、それでいて土俵際で美しく広がる大銀杏。それはまさに、伝統の技が生み出す動的な彫刻作品といえる。