彼の正式な名前は、ドナルド・フォントレロイ・ダック(Donald Fauntleroy Duck)という。普段の親しみやすい呼び名からは想像もつかないほど重厚な響きを持つこの本名は、単なる気まぐれで付けられたものではない。
注目すべきは、中央に鎮座するミドルネーム「フォントレロイ」だ。19世紀末にベストセラーとなった小説『小公子』の主人公フランシス・ホジソン・バーネット作品のイメージに由来し、当時は「品行方正で仕立ての良い服を着たお坊ちゃん」の象徴だった。気短で怒りっぽく、トラブルばかり起こす彼に、あえて高貴で礼儀正しいイメージのミドルネームを与える。この皮肉の効いた対比こそが、初期の制作スタッフが仕掛けたユーモアの真骨頂だった。
さらに二次資料や軍の入隊記録の設定においても、このミドルネームは公式証明されている。太平洋戦争期に公開された戦時広報作品『ドナルドの入隊』(1942年)の作中、徴兵カードにハッキリと「Donald Fauntleroy Duck」と記載されているのだ。アニメーション史におけるリアリティの補強としても、この設定は極めて重要な意味を持っていた。