本作の引力を決定づけたのは、ヒロイン・秋穂澪を演じた竹内結子の圧倒的な存在感に他ならない。雨の季節にふらりと現れる「記憶を失った妻であり母」という非現実的な設定を、彼女は一切の作為を感じさせない佇まいで成立させた。濡れた髪、静かに伏せられた睫毛、そして戸惑いながらも家族へと注がれる柔らかな眼差し。そこに宿る透明感は、観る者すべての郷愁を呼び覚ます。
対する夫・巧を演じた中村獅童の抑制された芝居も素晴らしい。持病を抱え、不器用で、自分に自信を持てない男が、それでも妻と幼い息子を懸命に守ろうとする姿は、恋愛映画特有の甘美さを超えた生々しい人間味を放っていた。二人の間に流れる空気は、演技という枠を超えてどこまでも自然で、だからこそ訪れる別れの予感が観客の胸を痛烈に締め付ける。