力餅食堂を語る上で欠かせないのが、日本の商業史においても特筆すべき「ボランタリーチェーン型ののれん分け制度」です。現代の一般的なフランチャイズビジネスでは、加盟店が本部に加盟金や毎月の売上ロイヤリティを支払い、画一化されたマニュアルとセントラルキッチンから供給される食材で運営されます。しかし、力餅食堂の拡大モデルはそれとは正反対の思想で設計されていました。
力餅食堂において暖簾を分けるための絶対条件は、金銭ではなく「人間関係と修行の実績」でした。血縁者であるか、あるいは店に入門して住み込みで8年から10年以上の歳月をかけて誠実に働き、出汁の引き方から接客、商売人としての倫理観を叩き込まれた番頭や職人だけに、独立の権利が無償で与えられたのです。驚くべきことに、独立後も本部からロイヤリティを徴収されることは一切なく、各店主が独立採算で店を切り盛りする仕組みが取られていました。
各店舗を結びつける唯一の強固な絆が、緩やかな相互扶助組織である「力餅会(親睦会)」と、看板に掲げられた「巾着マーク(お福分けの印)」でした。この巾着の紋章は、七福神の大黒天が持つ宝袋に由来しており、「福をため込み、訪れる客に福を分け与える」「商売繁盛と家内安全」を象徴しています。お互いの商圏を侵さないよう出店エリアを紳士協定で調整し、冠婚葬祭や困りごとがあれば支え合うという、強固な職人共同体の信頼関係によって、最盛期には関西一円に約180店舗もの巨大ネットワークを築き上げたのです。