東雲住宅を巡る最も重い歴史が、福島県からの避難者に対する立ち退き請求と、それに伴う泥沼の明け渡し訴訟です。発端は2017年3月末、福島県が避難指示区域外からのいわゆる「自主避難者」に対する住宅無償提供を打ち切ったことでした。福島県は2年間の激変緩和措置(家賃補助や低額家賃での賃貸)を設けたものの、経済的困窮や健康不安、東京での生活基盤定着を理由に、一部世帯が退去に応じず居住を継続しました。
県側が立ち退きを求めた理由は明確でした。「公の財産を特定の個人が無権原で占有し続けることは、法の下の平等に反し、他の帰還者や自力で転居した避難者との公平性を著しく欠く」という法治行政の原則です。福島県は再三にわたり面談や書面での立ち退き要請を行いましたが、合意に至らなかった世帯に対し、2019年以降、部屋の明け渡しと退去期限翌日からの家賃相当損害金(民間相場相当額の2倍を請求できる規定などを含む)の支払いを求めて東京地裁に提訴しました。
裁判において被告となった避難者側は、「健康上の理由や高齢、子どもの教育環境などから退去は著しく過酷であり、居住権を侵害する」と主張し、支援団体とともに記者会見で涙ながらに窮状を訴えました。しかし、司法の判断は極めて厳格でした。東京地方裁判所、東京高等裁判所ともに福島県の請求を全面的に認める判決を下し、避難者側の上告も最高裁判所によって棄却・不受理とされ、県の勝訴が完全に確定しました。
判決確定後、強制執行(退去の断行)の手続きが進められたほか、損害金債権の回収を目的とした財産調査が実施されたことで、最後まで残っていた世帯も自主退去や公営住宅への転居を余儀なくされました。人道的配慮と行政法規の厳格運用の間で激しく揺れ動いた法廷闘争は、法秩序の回復という形で法的な決着を迎えました。