チシヤというキャラクターの根底にあるのは、卓越した知能と徹底的な人間不信です。そのバックボーンを理解する上で欠かせないのが、彼の本名と隠された過去のエピソードです。
彼の本名は苣屋 駿太郎(ちしや しゅんたろう)。『不思議の国のアリス』に登場する「チェシャ猫(Cheshire Cat)」がモチーフとなっており、神出鬼没で何を考えているか分からない飄々とした態度は、まさにこのモチーフを色濃く反映しています。
「今際の国」へ迷い込む前、チシヤは大学病院に勤務する小児科志望の医学生(研修医)でした。医師としての未来を歩み始めた若きチシヤが目撃したのは、医療現場に蔓延する残酷な現実と「命の不平等」でした。有力者の子どもを優先して臓器移植の順番を繰り上げ、貧しい家庭の子どもが見殺しにされていく医療界の不正と権力構造。どれだけ誠意を尽くしても、人間の命は金や社会的地位によって無慈悲に選別されるという現実に直面したことで、チシヤの心は完全に摩耗していきました。
「どうせ人間なんて、自分の利益のために平気で他者を切り捨てる」。そう悟ったチシヤは、他人に感情移入することをやめ、自らの感情に分厚い防壁を築く道を選びます。「今際の国」で見せていた冷徹な立ち振る舞いや、他者の死に動じない態度は、冷酷なサイコパスだからではなく、過酷な現実から自らの精神を守るために身につけた究極の防衛本能だったのです。