肝機能が低下するとなぜ皮膚が痒くなるのか。その医学的プロセスには、主に2つのルートが解明されています。ひとつは「胆汁酸の血中うっ滞」、もうひとつは「中枢神経系におけるオピオイド受容体のバランス破綻」です。
肝臓では、脂肪の消化吸収を助ける「胆汁」という消化液が常時生成されています。しかし、肝細胞の破壊や胆管の炎症・閉塞によって胆汁の流れが滞ると、胆汁に含まれる胆汁酸などの成分が血管内へと逆流します。血流に乗って全身の皮膚組織に沈着した胆汁酸が、末梢の知覚神経(C線維)を直接・間接に刺激し、激しい掻痒感を引き起こすのです。
さらに近年、脳内の中枢性メカニズムも明らかになってきました。肝硬変や重度の肝障害に陥ると、脳内で痒みを誘発する「μ(ミュー)オピオイド」の働きが過剰になり、痒みを抑える「κ(カッパ)オピオイド」の働きが低下します。この中枢神経のアンバランスが、末梢に異常がなくても脳に「猛烈に痒い」というシグナルを送り続ける原因となっています。