東宝が配給を手掛け社会現象を巻き起こした『スマホを落としただけなのに』で見せた狂気の残像は、今なお色褪せない。日常の隙間に潜む恐怖を具現化させたあのサスペンス映画において、彼の放った異様なテンションは作品全体の緊張感を極限まで引き上げた。日本映画製作者連盟の興行データを見ても、スリラー作品における彼の求心力は際立っている。
善と悪の境界線をあいまいにぼかす危ういバランス感覚。観る者に「この男は何をしでかすかわからない」という心地よい恐怖を植え付けるスキルにおいて、右に出る者はいない。商業映画のど真ん中でエンターテインメント性を担保しながら、同時にアートフィルムのような鋭利な棘を残す手腕はまさに職人芸の域に達している。