かつてバッグは手で持つものだった。その常識を覆したのが、1955年にガブリエル・シャネルが生み出した伝説的な「2.55」である。両手を塞がれていた女性たちに自由をもたらした革新的なチェーンストラップは、ファッションの歴史における決定的な転換点となった。バッグを肩にかけるという行為は、自立と行動の象徴だったのだ。
だが現代のライフスタイルは、その自由と引き換えに過酷な代償を身体に求めている。ノートPC、タブレット、マイボトル、充電器。膨れ上がったデジタル装備を細いレザーストラップで吊り下げれば、接地面積の狭い肩の一点に凄まじい圧力が集中する。アパレル・服飾雑貨産業の人間工学リサーチでも、幅2cm未満の硬い紐を長時間かけ続けることが、血流の悪化や姿勢の歪み、慢性的な頭痛の引き金になることが示されている。問題は鞄の中身の重量だけではない。荷重を分散できないストラップの構造こそが、痛みの真犯人だ。